北海道で、北海道の木を使ってつくられた知育おもちゃ。シンプルな見た目ながら実は緻密な計算で遊びの難易度が設計された、児童館でも認められる知育玩具です。優しい5種類の木の木目や、水色と緑のカラフルなビー玉が見た目にかわいいことに加え、遊んでいる子どもたちの楽しそうな雰囲気をうまくロゴやウェブサイトのデザイン・アニメーションの演出で表現したいと考えました。このおもちゃが生み出された背景やストーリーなどはあえて表に強く出さず、ただただ遊んでみたいと思わせる楽しさやかわいさにこだわりました。
おもしろく失敗して楽しく学ぶおもちゃ
合同会社森のピタゴラス
北海道の木をいかし、子どもたちの成長にもつながるおもちゃ
2018年10月ごろ「北海道の森で生まれた、新しいおもちゃを紹介するウェブサイトを立ち上げたい」というご相談がありました。相談してくださったのはNPO法人EZOROCKさんから派生した「合同会社森のピタゴラス」というできたばかりの組織。ピタゴラスという単語を聞いただけでなんだか楽しそうですね、と前のめりに話を聞いていくことになりました。
EZOROCKさんはもともとRISING SUN ROCK FESTIVALの環境問題に取り組もうという有志で立ち上げられた団体で、これを発端に北海道内でさまざまな社会活動をされています。学生をはじめ北海道に地域貢献できる何かをできないか、という想いを持った若者が集まっています。
北海道の抱える課題の一つ、森林問題は知る人ぞ知る喫緊の課題です。安価な輸入材が使われることで活かされる機会が減ってしまった北海道産材、立ち行かない林業、管理できなくなった森林から起こる環境問題など様々な地域課題につながっています。もちろんすでに、この課題に対したくさんの方が多方面からアプローチし取り組んでいます。道産材を利用した木製品製造もその一つです。しかし自然保護の観点で生産されたものは、道産材を利用することが第一義となってしまい、割高になってしまいます。
一方で、子どものおもちゃとして地域の児童館に購入されているものはほとんどがドイツ製なのだそうです。児童館のような教育施設が必要としているおもちゃは「知育玩具」と呼ばれる子どもの成長を促すものです。知育玩具として機能する一定レベルの性能がある、と教育機関から認められているものは日本製のものでそれほど多くなく、かつ国産材を使ったものは輸入材を使ったものよりも割高になる。結果、多くの施設がドイツ製のおもちゃを選んでいるのが現実なのだそうです。
森のピタゴラスは製材から組み立てまですべて北海道下川町でつくられています
ただ「北海道の木を使ったおもちゃ」というでは子どもたちの手には届かない。自分たちと同じ場所で育った木に触れる機会もない。北海道の木を活かして、教育機関にも認められる知育玩具が作れたら、どちらにも良い循環を生むことができるし、双方の課題を解決することができて良いのではないか。
そんな想いで「森のピタゴラス」という知育玩具が開発されました。
森のピタゴラスは、子どもも大人も楽しい
相談に来られたタイミングでもう試作品は完成していました。
構造はいたってシンプル。碁盤の目状に穴のあいた画板サイズの木の板に、支柱となる木を差し込んで、柱と柱の上に板を乗せるだけ。ビー玉が上手に転がるように橋渡ししてピタゴラ装置を作る。作りがシンプルだから持ち運びができて場所を選ばずどこでも遊べます。
またゲームの難易度も、大人でも結構難しくてうまくビー玉が転がらなかったり、偶然思いがけない動きができたり、ちょうど簡単すぎず難しすぎないところに設定されていました。大人が遊んでも楽しいものは、子どもが遊んでも楽しい、ということなんだそうです。
開発者の大人二人が失敗してがっかりしている様子に思わず笑ってしまいました
私が試作品を見せてもらって一番気に入ったのはビー玉が転がる音でした。柱に渡す板には、北海道の木材5種類がパーツとして用意されているのですが、木によってビー玉が跳ねたり転がったりした時の音が違うのです。ちょっとした音楽のようでとても素敵でした。
青と緑のビー玉が可愛い
製品としては完成していて、すでにいくつかの児童館に導入されることが決まっていて、それは知育玩具としても教育機関に認められた段階にまで来ているということでした。あとはこれをどう表現して世に伝えていくか、私が任されたのはそれだけでした。
作り手と、使い手の想いのバランスをとる
森のピタゴラスの代表崎川さんは、樹木医といって木のドクターともいうべき方でした。また、おもちゃ作りに関わっている方々もそれぞれが北海道の木のプロフェッショナル。さらっと書いていますが製造に関わるところでも語るべきストーリーはたくさんありました。
北海道の森に分け入り、木の個性を見極める崎川さん
そして関わっている皆さんとても真面目で、ちゃんとしていて、すごく考えている。実はそこに「子どもが遊ぶおもちゃ」を表現するうえでのギャップがありました。子どもたちに実際に試作品で遊んでもらう体験イベントでも、わーーっと力いっぱいはしゃぎまわっている子どもの中に、めちゃくちゃ真面目に森のことを考える静かな崎川さん。(崎川さんは子ども受けのために着ぐるみを着ようか悩んでいるくらいでした。)
環境や教育に良いから、といって子どもが遊びたくなるわけではありません。道産材が使われていることと、知育に役に立つ性能のどちらも開発の動機にはなっているものの、おもちゃの本質は「遊んで楽しい」ことです。あ、可愛い。あ、きれいな音がきこえる。なんか面白そう。そのようなおもちゃに触れるきっかけを、まず子どもたちにつかんでもらうことが大事なんじゃないか?
やってみたらみんな夢中に、成功したら大歓声
私たちは、おもちゃの開発背景のストーリーを見せるよりおもちゃとしての楽しさをまず感じてもらう方が優先だと考え、ロゴやウェブサイトといったビジュアル表現の方向性をつかんでいきました。
台北と札幌での初の共同プロジェクト
タイミングとしてちょうどGear8の台湾法人が立ち上がって間もない頃で、札幌と一緒に進める初プロジェクトとして台北のYUZUにデザイナーとして参加してもらうことになりました。彼は3歳の息子がいるパパなので、子どもが喜ぶものをデザインするのに最適でした。また森のピタゴラスのおもちゃ自体も木の質感を活かしたとても素朴なデザインで、昔からあるものを大事にしたり、どこか優しさを感じさせるものが多い台湾のデザインセンスと、とてもマッチしていると思っていました。
ロゴマークのデザイン、日本語のタイプロゴなど、ほとんど感覚のミスマッチもなく進んでいきました。ただのおもちゃじゃなくて知育玩具なのでどこか知的な要素も入れつつ、でも優等生ぶったかっこいいものではなく楽しく可愛いものにしよう、とか、木のおもちゃのどこかに焼印に使ってもらえると可愛いよね、とか、ウェブだとピタゴラ装置みたいに動くと面白いんじゃない、とか、アイデアを出し合いました。
ピタゴラスの動きをウェブサイトで表現
ウェブサイトにはビー玉が転がったり、板が跳ねたりする遊んでいる状況をイメージしたアニメーションをたくさん取り入れました。
ピタゴラ装置まではいきませんでしたが、木とビー玉が集まってできるロゴのアニメーションがさりげなくてお気に入りです
私たちのアイデアに対して森のピタゴラスの皆さんが積極的に動画撮影に挑戦してくださり、スマホ撮影の動画が入ることでむしろプロっぽくない手作り感が出ていい味になりました。もちろんこれらの動画はすべてInstagram、FacebookといったSNSでも紹介用ムービーとして配信されています。また、オンライン販売で個人でも購入してもらえるようにしました。
じわじわと広がる森のピタゴラス
コンセプトがしっかりしていて、製品自体も仕上がっている。あとは人に見てもらう時のツールをデザインをするだけ、というだいぶ楽しいお仕事でした。おかげさまでいろんなところで好評いただいているとのことです。
たくさん売ることが一番の目的ではない、たくさんの子どもたちに使ってもらうことが大事、ということでレンタルも行われています。ちょっとしたアウトドアイベントでも重宝されたり、北海道内の導入施設も着々と増えていっているということです。