2026.10.02

同じ条件でも、デザインは変わる。TERAKOYA 8で考えたデザインディレクション

Yusuke Hatano

こんにちは、ディレクターの秦野です。
GEAR8では定期的に、社内勉強会「TERAKOYA 8」を開催しています。
今回のテーマは、デザインそのものというより、その少し手前にある「デザインディレクション」についてでした。同じ案件において、同じ要件、同じ資料で、複数のデザイナーさんに渡したとき、アウトプットはどこまで変わるのか。そして、その違いはデザイナー個人のスキルによるものなのか、それとも依頼の仕方や情報の渡し方によって生まれるものなのか。実際のプロジェクトを使って比較・検証してみました。
完成したデザインを並べてみると、単純な「どちらのデザインが良いか」以上に、様々なことが見えてきました。

デザインの差を、感覚だけで終わらせない

Web制作をしていると、「こっちの案の方がいい」「なんとなくこっちの方が今っぽい」という話になることがあります。

もちろん、デザインには感覚的な部分があります。ただ、その差をもう少し分解して考えることはできないだろうかと思ってました。今回の取り組みでは、複数のデザイナーに同じ条件で制作してもらい、そのアウトプットを並べて検証しました。

見るのは完成したビジュアルだけではなく、どの段階で確認を入れたのか?どんな質問が出たのか?どこで迷ったのか?どんなデータ構造で作ったのか?そして、ディレクター側がどんな情報を渡していたのか?

制作プロセスも含めて比較してみることで、普段は個人の感覚として処理されている「デザインの違い」を、できるだけ言葉にして残してみようという試みです。

ケース1|相手が判断できるところまで、どう仕上げるか

あるコーポレートサイト制作では、複数のデザイナーに同じ資料を渡して制作を進めました。
アイデアの方向性自体には、それぞれ面白さがありましたが、大きな違いが出たのが「完成ライン」です。

あるデザイナーは、かなり早い段階で制作途中のFigmaを共有し、「この方向で進めて問題ないか」
を確認していました。方向性が決まると、そこから細部を一気に詰めていく。途中でトーンの変更が入っても、短時間で複数の選択肢を提示するようにしていたそうです。

一方で、別の案では面白いアイデアは出ていても、クライアントが判断できる状態まで持っていくところで時間がかかりました。

この比較から感じたのは、アイデアを考えることと、相手が判断できる状態まで整えることは、少し違う力なのだと思います。「どこまで作れば相手が判断できるのか」という完成基準を自分の中に持っているかどうか。これは、経験によって差が出やすい部分なのかもしれません。

ただし、この案件ではディレクター側にも反省がありました。ワイヤーフレームに入れていた仮のキャッチコピーが強すぎて、どのデザインも、その言葉から想像できる世界観に引っ張られてしまったのです。ディレクターとしては「仮置き」のつもりでも、受け取る側にとっては立派なデザイン条件になります。

何を渡すかだけではなく、何を“条件として受け取ってほしくないか”まで伝える必要がある。これは大きな気づきでした。

ケース2|案件によって必要な「強さ」は変わる

あるサービスLPでは、表現方法による違いが非常に分かりやすく出ました。一方の案は、情報設計がとても整理されていました。見出し、コンテンツ、CTA。必要な情報が迷わず読める、安定した構成です。

もう一方は、イラストを大きく使い、サービスの世界観そのものをビジュアルで伝えるデザインでした。最終的にクライアントに選ばれたのは、後者でした。この案件の場合、サービス内容を正確に整理すること以上に、「難しそうに見せない」「親しみやすく感じてもらう」ことが重要だったのだと思います。

つまり、どちらが優れているかという話ではなく、今回の案件で必要だった能力と、デザイナーの得意領域が一致したということです。アサインを考えるときも、単に経験年数や総合力を見るのではなく、
「この案件の成功条件は何か」を最初に考える必要がありそうです。

ケース3|企業理解と、ターゲット理解は同じではない

採用サイトのリニューアルでも、興味深い違いが出ました。

一方のデザイナーは、その企業の過去のWeb制作にも関わっており、会社のことをよく理解していました。企業らしさやこれまで大切にしてきたトーン、そして、業界の空気感。そういった背景を理解していることは、大きな強みです。ただ、完成したデザインは、少し企業側の視点に寄った、落ち着いた印象になりました。

一方、別の案では、ビビッドな配色や曲線、イラストを使い、かなり柔らかく大胆な表現になりました。

クライアントから評価されたのは大胆な表現のデザインでした。理由はシンプルで、「若い人に見てもらう採用サイトだから、このくらいの方がいい」というものです。

ここで改めて、企業を理解していることと、ターゲットを理解していることは別だと感じました。特に採用サイトの場合、企業のこれまでを知ること以上に、初めてその会社を見る人の感覚にどれだけ近づけるか。そこが重要になることがあります。知識や経験は大切ですが、ときには「知りすぎていないこと」が新しい視点を生む。これも、デザインの面白いところだと思います。

ケース4|良い指示書は、デザインを縛るものではない

最後は、コーポレートサイトのフルリニューアル案件です。
この案件では、ディレクターからデザイナーに渡した資料が非常に整理されていました。そして、「先進的すぎる表現にはしない」や「この方向のおしゃれさは企業イメージと違う」といったNGの方向性まで書かれていました。

つまり、「こうしてください」だけではなく、「ここから先には行かないでください」という境界線が示されていたわけです。結果として、デザイナーからは方向性の違う複数案が比較的スムーズに上がってきました。指示が細かいほど、クリエイティブの自由度が下がるようにも思えます。でも、今回のケースを見ると逆でした。

判断しなくていい部分を明確にすることで、本当に考えてほしい部分に集中できる。
良い指示書は、デザイナーを縛るものではなく、「自由に考えていい範囲」を明確にするものなのだと思います。

デザインディレクションにも「相手に合わせた設計」が必要

今回の比較で、ディレクター側にもかなり多くの反省点が見つかりました。例えば、未完成のワイヤーフレーム。空欄を残したまま渡してしまうと、デザイナーは、「ここは自分で考えて埋めるべきなのか」「まだ決まっていないだけなのか」を判断できません。結果として、推測で作ったものを後から作り直すことになります。

また、テキストだけで修正内容を伝えようとして、何度も往復してしまったケースもありました。
ところが、Figma上に簡単な図を描いたら、一瞬で伝わった。ここから、2往復しても伝わらなければ、伝え方を変える。というルールも見えてきました。

ほかにも、
・未確定なものには「未確定」と書く
・NGの方向性を共有する
・使用する写真や情報の鮮度を事前に確認する
・良かった部分を明確にした上で修正点を絞る
・相手によって指示の細かさを変える
など、かなり具体的な改善点が見つかりました。

ディレクションは、「自分の頭の中にある完成形を説明すること」ではありません。相手が迷わず判断できる状態を作ること。今回の取り組みを通して、改めてそう感じました。

人への指示と、AIへの指示は意外と似ている

今回の話を聞きながら、個人的にかなり気になったのが、生成AIとの共通点です。最近は、Webデザインや資料制作でもAIを使う場面が増えています。そこで同じことがよく起きます。仮コピーを入れておくと、その言葉に引っ張られる。空欄を渡すと、勝手に補完する。「いい感じにしてください」と言うと、AIなりの「いい感じ」を作ってくる。人に対する指示で起きていたことと、ほとんど変わりません。

逆に、「ここは固定」「ここだけ変更」「この方向はNG」「安全な案と挑戦した案を1つずつ」と条件を整理すると、アウトプットはかなり安定します。AIを上手く使うには、特殊なプロンプトのテクニックが必要だと思われがちです。

でも実際には、目的、条件、判断基準を整理して渡す。という、これまでデザインディレクションでやってきたことの延長にあるように感じます。AIが増えれば増えるほど、むしろディレクターの仕事は重要になるのかもしれません。

デザインの違いを、組織の知識に変える

今回のTERAKOYA 8で一番面白かったのは、「良いデザインとは何か」に一つの正解がなかったことです。完成度が高い案が適している案件もある。大胆な表現が刺さる案件もある。企業理解が重要な案件もあれば、過去を知らない視点が有効な案件もある。だからこそ、「どのデザイナーが一番優秀か」ではなく、「この案件には、どんな強みが必要なのか」という視点が大切なのだと思います。

そしてもう一つ。デザインの違いを、「センスが違うから」で終わらせないこと。なぜ違ったのか。何を見て判断したのか。どんな情報が足りなかったのか。どんな指示なら、もっと良い結果になったのか。
そこまで言葉にできれば、一つの案件で得た経験を、次の案件でも使える知識に変えることができます。
完成したデザインだけではなく、その裏側にある判断まで共有する。今回のTERAKOYA 8は、デザインを個人のスキルとしてだけではなく、組織の知識としてどう残していくかを考える時間になりました。

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Yusuke Hatano

1975年福岡に生まれて、横浜で育って、今は北海道在住です。大学卒業後、PCインストラクターとなり北海道エリアの立ち上げで札幌に転勤してきました。その後、その会社を退職したものの、そのまま札幌に移住しました。 ウェブの世界に興味を持ったので、仕事をしながらデジタルハリウッド札幌校でウェブサイト構築について勉強。卒業後、いくつかのウェブメディア構築運営に携わり2015年に友人に紹介してもらったGEAR8に入社して現在に至ります。 家に帰ると娘2人の父親として奮闘中。最近は自宅のスマートホーム化に目覚め、日々新しいガジェットを研究しています。