2025.12.03

Macでカルーセルだけ動かない…原因は「視差効果を減らす」だった話

Wataru Machishima

まずは結論:これで直るかもしれません

もしあなたが今、

  • macOSを使っていて
  • あるサイトでカルーセルやスライダーだけが動かない
  • でも他のJavaScript(メニュー、フォーム送信など)は動いている
  • iPhoneでは普通に動くし、別の人のMacでは問題ない

という状況なら、以下を一度試してみてください。

手順:macOSの「視差効果を減らす」をオフにする

  • 画面左上の  メニューから「システム設定…」を開く
  • 左メニューの「アクセシビリティ」をクリック
  • 「視覚サポート」セクションにある「ディスプレイ」を開く

  • 中央あたりにある
    「視差効果を減らす」のスイッチをオフ(グレー)にする

  • ブラウザ(Edge / Firefox / Safari など)を一度終了(⌘Q)して再起動
  • 問題のカルーセルを表示しているページを再読み込みする

これでカルーセルが動き出す場合、原因はかなりの確率で
macOSの「視差効果を減らす」設定と、それに反応したライブラリ側の挙動です。

ここから先は、経緯と考察です

上の対処で解決した方は、ここから先は「なぜそうなるのか」「実装側はどう考えると良さそうか」を整理した読み物パートです。

同じような事象で悩んでいる制作・開発チームの参考になれば幸いです。

症状のおさらい:JavaScriptは生きているのに、カルーセルだけ死んでいる

状況を整理するとこうです。

  • 対象環境:
    • macOS
    • Edge / Firefox など複数ブラウザ
  • 現象:
    • ページ読み込みエラーはなし
    • メニューの開閉、フォーム送信、他のJavaScriptは正常に動作
    • カルーセルだけ、自動再生もスライド切り替えも始まらない
  • 別環境では:
    • iPhoneのSafari → 正常動作
    • 同じMac上の、別のユーザーアカウント → 正常動作

つまり、

  • JavaScript全体が落ちているわけではない
  • ネットワークやCDNも正常
  • 「このユーザーだけカルーセルが止まる」

という症状でした。

最初の仮説:ブラウザ設定やセキュリティソフトの影響では?

まず疑ったのは、王道のところです。

ブラウザ・拡張機能の線

  • シークレットウィンドウ(Cmd+Shift+N)で再現するか
  • 全拡張機能オフでも再現するか
  • トラッキング防止レベルを下げても変わらないか

→ いずれも再現する。
→ 「ブラウザ内のクッキーや拡張だけの問題ではなさそう」と判断。

セキュリティソフトの線

次に、ブラウザをまたいで影響しそうなソフトを疑いました。

  • ウイルス対策ソフト
  • フィッシング対策ソフト
  • ネットワークフィルタ系

これらを、

  • ログイン項目から削除
  • バックグラウンド実行をオフ
  • アンインストーラで完全削除 → 再起動

まで行いましたが、現象は変わらず。

このあたりで、「システム全体の設定というより“このユーザー環境のどこか”に原因がありそう」という感触が強くなりました。

決め手:新規ユーザーでは問題が起きない

決定的だったのがこの観察です。

同じMac上で新しくユーザーアカウントを作成し、そのユーザーでログインすると、カルーセルは正常に動作する。

  • 同じハードウェア
  • 同じmacOSバージョン
  • 同じネットワーク / DNS
  • 同じブラウザ

でも、

  • 既存ユーザー → カルーセルだけ動かない
  • 新規ユーザー → すべて正常

となると、疑うべきはほぼ絞られます。

✅ OS全体設定・ルーター・DNS → シロに近い
✅ セキュリティソフト → ほぼ排除済み
⚠️ 既存ユーザーの「ユーザー設定(アクセシビリティなど)」がクロ候補

ここで「OSのアクセシビリティ設定」を見に行く、という流れになりました。

macOSの「視差効果を減らす」とprefers-reduced-motion

アクセシビリティ → ディスプレイ → 視差効果を見てみると、
問題が起きていたユーザーでは「視差効果を減らす」がオンになっていました。

この設定がオンだと、macOSは「このユーザーはアニメーションを少なめにしてほしい」という意図をブラウザに伝えます。

ブラウザからは、次のように見えるようです。

window.matchMedia('(prefers-reduced-motion: reduce)').matches
// => true

いわゆる prefers-reduced-motion の値が reduce になるわけです。

ライブラリはどう解釈するか

最近のカルーセルやアニメーションライブラリは、
この prefers-reduced-motion を見て挙動を変えることが多くなっています。

  • 自動再生を止める
  • アニメーションの速度を0にする
  • トランジションのエフェクトを簡略化する

などがよくある対応です。

今回の場合も、使用していたライブラリ(SplideやGSAP系)が、

prefers-reduced-motion: reduce のときは、自動アニメーションを止める」

という仕様になっており、その結果、

  • JavaScript自体は正常に読み込み・実行されている
  • しかし、ユーザーの設定に従って“あえて動かしていない”

という状態になっていたと推測します。

実装側でどう考えるか:アクセシビリティと表現のバランス

この事例は、

  • アクセシビリティ(ユーザーの「動きを減らしたい」という希望)
  • ビジュアル表現(ヒーローエリアのカルーセルなど)

のバランスをどう取るか、を考えるきっかけにもなりました。

原則としては「ユーザーの設定を尊重する」

てんかん発作や乗り物酔いなどを避けるため、激しいアニメーションをオフにしたいユーザーは確実にいます。

OSレベルで「動きを減らす」設定が用意されていて、Webがそれを拾って表現を調整するのは、本来とても良い流れです。

とはいえ、止まり方の調整余地はある

一方で、サイトによっては

  • メインビジュアルが完全に動かないと、メッセージが伝わりづらい
  • スライドが切り替わらないと、コンテンツが一部見えない

というケースもあります。

そういった場合は、ライブラリ側のオプションで、

  • 自動再生は止めるが、手動操作(矢印 / ドット)は有効にする
  • アニメーション速度を大幅に落とすが、完全にゼロにはしない

など、動きの量を減らしつつ、体験を完全に失わない方向性も検討できます。

似たトラブルに遭遇したときのチェックリスト

今回の調査を通して、「こういう順番で潰していくと整理しやすい」と感じたポイントをまとめておきます。

1. 他端末/他ユーザーで再現するか

  • iPhone / 別のPC / 同じMacの別ユーザーアカウントで再現するか確認する
  • → 別環境では正常なら、「その端末/ユーザー固有の問題」の可能性が高い

2. ブラウザをまたいで同じか

  • Safari / Chrome / Edge / Firefox など、複数ブラウザで試してみる
  • → すべて同じ症状なら、ブラウザ個別の問題ではない可能性が高い

3. セキュリティソフト・VPN・ネットワーク系常駐アプリ

  • ウイルス対策ソフト、フィッシング対策ツール、VPNなどを一時的に停止して挙動を見る
  • → それで改善する場合は、そのソフトのフィルタ設定を見直す

4. OSのアクセシビリティ設定

  • macOSの「アクセシビリティ」設定を確認する
  • 特に「視差効果を減らす」など、表示やアニメーションに関わる項目をチェックする

おわりに

今回の「Macでカルーセルだけ動かない」問題は、最初は単なる不具合だと思って調べ始めましたが、原因は意外にもMac本体の設定(視差効果を減らす)でした。

同じMacでも、ユーザーごとの設定によって表示や動き方が変わることがあります。その結果として、「ある人の環境でだけうまく動かない」という現象が起きるのだと、あらためて実感しました。

Webサイトをつくる側としては、

  • 不具合かな?と思ったときに、OSやアクセシビリティの設定も選択肢に入れてみること
  • そして、できる限り「誰の環境でもストレスなく使える」状態を目指していくこと

この2つを意識しておきたいところです。

この記事が、同じような症状で悩んでいる方のヒントになればうれしいですし、
日々の制作現場での「トラブルシューティングの視点」を少しでも共有できていれば幸いです。

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Wataru Machishima

1985年3月北海道登別市生まれ。小樽、函館を経て13歳から札幌在住。パンダは特別好きではなかったですが、10年も担当動物として一緒にいて今や愛着もひとしおです。

大学在学中のインターン経由で翻訳会社へ入社し営業マンとして外国語のツールやウェブ制作に携わりました。制作会社に移り3ヶ月だけウェブデザイナー、その後ディレクターとなり2年で167件のディレクションを担当し精神を鍛えたのち、2012年からGEAR8でディレクターです。

夏は主にファミキャンで道内キャンプ場にいます。テントはOGAWA(2022年〜)、良さげなギアを見てはポチり過ぎて赤字になります。ディレクションという仕事が好きで、担当するクライアントのためにいろいろ思考を深めます。国内のウェブ系勉強会に参加とたまに登壇も。気軽に声をかけてください!